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◆をとめの姿ふき閉じよ



いつもよりも出かけるのが遅くなってしまった。
準備にすこし手間取り、天一に手伝ってもらいやっとのていで衣をかづく事ができた。
市へと行こうと素足をそっと伸ばして履物をはいているところで
目の前に、はた、と止まる黒い履が目に入った。

「あ、昌浩。おかえりなさい」

帰ってきた。
その嬉しさに、すこし衣をずらして見上げれば、口をパクパクしている
昌浩の顔が視界に飛び込んできた。
するりと彼の肩から降り立った、白い獣にも彰子は口元をほころばせる。

「もっくんも、おかえりなさい」
「おう。」

返事を返した白い物の怪は、何故か面白そうに口元をゆがめて、ぴょん、と彰子がいる傍らへと飛び上がってきた。

「出かけるのか、彰子よ。また市か?」
「ええ。お塩を、露樹様のおつかいで」

にこりと笑いながら物の怪にそう答えると、そうかそうか、彰子はえらいなあ、と獣は何故か昌浩に向かって話しかける。
ん?と首をかしげて昌浩を見やろうとしたとたん、目の前が突然開けた。

昌浩が彰子のかづいた衣をがばりとめくったのだ。

「…あの、昌浩?」

不思議に思った彰子は、昌浩を再び見上げる。
ふ、と目の前の薄紫の直衣が揺らめいたかと思った瞬間
何かを言いかけた彰子を包むようにして突然に昌浩が覆いかぶさった。


「!!」

昌浩に抱きかかえられた彰子は、さっと頬を朱に染めた。

驚いて、目を見張り、心臓は、早鐘を打ち始める。
息を呑んで、そのまま身動きできなくなった。
どうしよう、これは一体なんなのだろう。

かあ、と体の温度が上がるのを自覚しながら彰子は伽羅の香りの直衣を思わず握った。

「んぐぐぐ…ふんっ!」
「おお!」

物の怪が感嘆の声をあげる。

「…きゃ!」
「市なんて、危ないから彰子はだめだ!!!」

渾身の力で、昌浩はとうとう彰子をまるごと抱きあげた。
小さく悲鳴を上げた彰子が昌浩にしがみ付いたのと同時
叫んだ昌浩は履を脱ぎ捨てて、彰子を抱えたまま走り出して自室へと駆け込んでいった。


昌浩が、初めて彰子を抱きかかえた。
その様子を、感嘆のため息のなか見ていた物の怪は
脱ぎ散らかされた履に視線を落として、今度は呆れたと言うように長いため息をついた。

「そんなに彰子を市に出したくないのか、昌浩や。…どこまでも過保護だねぇ…甘い甘い」







****うちの昌浩さんはものすごい過保護です。というかどこにも出したくない(笑)
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